2019年4月1日から発給が始まった新しい在留資格「特定技能」。これまでの就労ビザ以上に仕事の幅が広がり、外国人が日本国内の企業に就職しやすくなりました。もう一つ特定技能の他に1993年度から導入された「技能実習制度」。就労ビザとは違い「技能実習」や「研修」といった在留資格で、日本国内の企業で働く事ができるビザです。
外国人労働者を雇用したいと考えている経営者の方は、この「特定技能」と「技能実習制度」の違いを把握することが必要不可欠です。それぞれに法律や届け出の仕方が違う為、きちんとした手順に沿って届け出をする必要があります。
もし手順を無視して届け出を怠ると外国人労働者を雇用できなくなるばかりか、万が一外国人労働者を雇えたとしても行政指導等、受入れ機関企業にとってマイナスになる可能性もあります。
今回は、在留資格「特定技能」と「技能実習制度」の違いについて詳しく解説していきます。
目次
特定技能と技能実習制度の違いとは何?
特定技能と技能実習制度の大きな違いは、「導入された目的」と「作業内容の違い」が挙げられます。
他にも多数の違いがありますが、根幹となる部分の違いを知ることで、それぞれの特性を理解しやすくなります。
目的の違い
特定技能が導入された目的は、「人手不足解消」で、技能実習制度の目的は「開発途上国への技術移転」です。メリットを享受する側が異なります。特定技能ビザを取得した外国人労働者は、最大で5年間、日本国内での就労が可能です。この就労と言うのは、特定技能ビザの内、14の職種に限られます。
これまでの就労ビザでは、就労が認められていなかった(一部就労ビザと重複する職種有)業種に従事する事が出来ます。日本で働く事を夢見ている外国人労働者への門戸が大きく開かれたと言っても過言ではありません。
一方で技能実習制度のメリットを享受するのは、送り出している開発途上国です。もちろん技能実習生も日本の高いレベルでの技術を習得できる為、実習生本人にもメリットはあります。それ以上のメリットを享受しているのは実習生を送り出している国です。
日本の技術は世界でもトップクラスで、灌漑設備一つとっても、開発途上国にとっては喉から手が出るほど欲しい技術です。こうした技術移転が技能実習制度本来の目的です。
雇用関係の違い
技能実習制度では、外国人材は送り出し機関に登録し、管理団体から派遣される形で技能実習の実施機関で実習を行っていました。
一方、 特定技能は、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みとして設けられました。受け入れ企業と、外国人労働者とが直接雇用契約を結び、日本人と同じように企業で働く事が可能です。
もちろん社会保険などの福利厚生に関しても、日本人と同じような雇用形態にする為、外国人労働者本人と契約が結ばれます。
技能実習制度の労働基準法違反問題
技能実習制度が施行されたのは1993年です。2014年末には16万人を超える外国人技能実習生がいました。しかし彼らの労働環境は決して良いとは言えず、全国の実習実施機関の内76.0%にあたる2977事業所で労働基準法違反が認められた事実があります。
長時間勤務はもちろん、給与に関しても当初の取り決めより、かなり低い金額で働かされていました。実習という形ではありますが、日本人労働者よりも過酷な労働環境で働かされていたという事実があったのです。
特定技能ビザでは、こうした労基法違反が起こらないように、給与の支払い状況などを定期的に報告する義務があります。特定技能外国人を雇用しようと考えているのであれば、こうした労働基準法についてもきちんと遵守しなくてはならないのです。
特定技能受入れ機関・技能実習生事業主になるための基準
特定技能受入れ機関又は技能実習生事業主に登録するための基準について解説していきます。まずきちんと認識して欲しいのは、それぞれの目的が異なるという事です。
先ほども述べましたが、技能実習生の目的は日本の高い技術を自国に持ち帰って活用する事。決して安い賃金で働かせる事が出来る期間工では無いということです。
その認識を踏まえた上で次の項以降をお読みください。
特定技能受入れ機関として登録する為の基準
特定技能受入れ機関とは、特定技能外国人を雇用することが出来る企業の事です。外国人労働者を雇用したいからといって、ただ単にビザの確認をして雇用契約を結べばいいというものではありません。
特定技能受入れ機関として、雇用後の外国人労働者が日本人労働者と同じように生計を立てられるようにするのが務めであり、雇用する側の責任です。特定技能受入れ機関として登録する為の届け出や手続きを行う前に、クリアしなくてはいけない基準を満たしているかチェックしてください。
- 出入国管理関係法令・労働関係法令・社会保険関係法令等の遵守
- 1号特定技能外国人支援計画の作成、適正な実施
- 受け入れる外国人の安定的かつ円滑な在留活動の確保
この内、支援計画の作成と実施に関しては、外部の登録支援機関に委託することが可能です。登録支援機関では、外国人労働者の住宅の確保や、外国人からの相談や苦情の対応等を行います。
上記の基準をクリアしてはじめて特定技能受入れ機関として登録出来るのです。
技能実習生事業主として登録する為の基準
技能実習生事業主として登録する為の基準について解説していきます。技能実習生の受入れには大きく分けると企業単独型と団体監理型の2種類があります。
企業単独型とは、海外の現地法人や外国の取引先企業(一定期間の取引実績が必要)の常勤労働者を研修生として日本の企業で受け入れる方法です。この場合、原則として受入れ企業の常勤労働者20名につき研修生1名の受入れが可能です。
一方で団体監理型は、日本の公的援助や指導を受けた商工会議所や商工会、事業協同組合等の中小企業団体や公益法人等が受入れ責任を持ち、指導や監督をした上で受け入れが可能になる方法です。
この場合の受入れ人数の原則は常勤労働者50名につき研修生3名までとなっています。技能実習の実施要項では、実習実施者の責務は以下のように定められています。
実習実施者は、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護について技能実習を行わせる者としての責任を自覚し、技能実習生が技能実習に専念できるよう環境の整備に努めるとともに、実習期間の終期まで技能実習計画に従って技能実習を行わせなければなりません。
また、技能実習生は労働者として、日本人労働者と同様に労働に関する法令の適用を受け、保護されています。労働に関する法令とは、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法のほか、妊娠・出産等による不利益取扱いを禁止している男女雇用機会均等法や、同一労働同一賃金を定めたパートタイム・有期雇用労働法、ハラスメント防止対策を義務付ける労働施策総合推進法等(令和2年6月1日施行、一部中小事業主は令和4年3月 31 日まで努力義務)も含まれており、技能実習生も対象となることに注意してください。
この責務は、企業単独型と団体監理型の両方で課せられます。
技能実習生の受け入れのためには、実習生ごとに技能実習計画の作成を行い、機構から認定される必要があります。
また、実施者の基準として以下を満たさなければなりません。
□条件を満たす技能実習責任者を選任すること
□条件を満たす技能実習指導員を選任すること
□条件を満たす生活指導員を選任すること
□入国後講習の施設を確保すること
□事業に関する労働者災害補償保険に係る保険関係の成立を届出ること
□技能実習生の帰国旅費を負担するとともに、実習終了後の帰国が円滑にされ るよう必要な措置を講じること
■監理団体が取次ぎをする場合、その相手は一定の基準を満たした外国の送り出し機関であること
□過去5年以内に技能実習生の人権を著しく侵害する行為を行っていないこと、不正な目的で偽変造文書等の行使等を行っていないこと
□法令違反時に報告すること、二重契約をしないこと
■監理団体が改善命令を受けていた場合、改善に必要な措置をとっていること
□過去1年以内に責めに帰すべき事由による技能実習生の行方不明者を発生させていないこと
□技能実習を継続して行わせるための財務的基盤を有すること
(■は団体監理型のみ)
細かい基準を設けることで、実習実施者には、技能実習として、技能を身につけることができる環境を整えることが求められています。また、ポイント制による優良な実習実施者を設定し、労働環境の改善が図られています。
まとめ:特定技能と技能実習は完全に別モノと考えるべき
特定技能と技能実習制度は完全に別モノである事がお分かり頂けたと思います。今後外国人労働者を「人財」として雇用していく為には、「特定技能受入れ機関」として届け出なければなりません。
技能実習制度はあくまでも、開発途上国の技術移転が目的です。特定技能は日本で働きたい外国人労働者の為の在留資格ですから、その部分をはき違えてしまうと、技能実習制度を悪用した社会問題につながってしまうのです。
私たちが家族を養う為に仕事をしているように、日本で働きたいと考えている外国人にも家族がいます。特定技能ビザは日本経済に影を落とす労働力人口の減少を解消する為の一手です。外国人労働者も、日本経済もWINーWINの関係でなくては、特定技能ビザが新しく発行された意味がありません。
外国人を雇用したい経営者の皆さんは、これから特定技能について色々とニュースなどを目にするはずです。実際、特定技能2号に関しては、まだ2つの職種しか移行出来ません。今後政府内でも特定技能についての議論が進み、特定技能1号の職種全てが特定技能2号に移行できるようになるのも時間の問題です。
継続的な人材確保は企業にとって死活問題にもなります。人材不足で会社を倒産させたり、解散させたりすることが無いように、今の内から外国人労働者の採用について学んでおく必要があるのです。