日本の産業の中で最も人手不足が顕著な業種の一つである「介護業」。
2019年4月1日から新設された外国人労働者の為の在留資格「特定技能」にも「介護分野」が含まれています。外国人が介護業に従事する為にはこれまで在留資格「介護」、EPAによる「特定活動:介護」、技能実習制度での「介護:技能実習1・2・3号」がありました。
新設された「特定技能 介護」が加わり、全部で4種類の介護職ビザが発行された事になります。今回は4つの介護職ビザについてそれぞれの違いを中心に徹底解説していきます。介護事業を経営する方はきちんとそれぞれの特性を理解した上で外国人労働者を雇用して下さいね。
目次
外国人労働者の「介護」が日本の高齢化社会を救う?
冒頭でも述べましたが、介護業の人手不足は年々悪化しており、介護労働安定センターの2019年度の介護労働実態調査(http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2020r02_chousa_kekka_0818.pdf )では、介護サービスに従事する従業員の65.3%が従業員の不足感を感じていることが発表されました。
特に、訪問介護員は81.2%が人手不足を感じているなど、人材不足感が高い状況にあることがわかります。厚生労働省によると、2025年度末に必要な介護人材数は約245万人となり、2016年度の約190万人の介護人材数に加えて、さらに55万人の介護人材を必要があります。
施設で勤務する介護職員の平均年齢は30代~50代までが最も多いですが、訪問介護に関しては60代から70代までの高齢者も多くなっています。この事から今後のニーズが高いのは訪問介護が出来る介護職員である事が分かります。
しかし外国人労働者の在留資格で訪問介護が可能なのは在留資格「介護」のみ。
資格取得が必須なだけに、ただ就労したいというだけでは在留資格「介護」を取得するのは難しいのが現状でした。その取得ハードルを下げたのが、新設された「特定技能 介護」という訳です。
次の項からは4つの介護ビザの特徴について解説していきます。(厚生労働省 「外国人介護人材受け入れの仕組み」)
在留資格「介護」の特徴
在留資格「介護」は、介護職に従事する事が可能な在留資格の中で、最も取得が難しいです。国家資格である介護福祉士の取得が必要な為、高い技術と経験が求められます。 取得が難しい分、メリットも大きいです。詳しいメリットについては後述しますが、最も大きいメリットは、在留期間が最長5年で更新が可能な点です。
永住権の獲得も可能な為、雇用する施設や事業主としても、在留資格「介護」の有無で事業計画が大きく前進します。
「特定技能 介護」の特徴
「特定技能 介護」は2019年4月1日から発給がスタートした最も新しい在留資格です。資格取得の為には、「技能評価試験」と「日本語能力評価試験」、「介護日本語評価試験」という3つの試験に合格しなくてはいけません(技能実習2号を良好に終了している場合は免除)。試験は、国内に加えてカンボジア、インドネシア、モンゴル、ミャンマー、ネパール、フィリピン、タイの7か国で実施されています。
特定技能1号は在留期間の上限が5年と決まっています。ただし、特定技能1号を取得し、3年以上働いた後、介護福祉士の資格を取得すれば在留資格「介護」に移行することが可能で、在留期間も更新可能な最長5年になります。
特定技能に介護分野が追加されたのは、在留資格「介護」の門戸を広げ、介護職の人手不足を解消する為の手段でもあるということです。
EPAによる「介護」の特徴
EPAで介護業に従事している外国人労働者には、特定技能や技能実習とは別の在留資格である「特定活動」という在留資格が与えられます。このEPAというのは経済連携協定という国同士の経済協力制度の事を指します。日本とEPAを締結している国は、「インドネア」、「フィリピン」、「ベトナム」の3ヶ国です。
EPAでの就労期間は4年間を上限としていますが、介護福祉士の資格を取得すれば永続的に滞在が可能です。この点は特定技能から在留資格「介護」への移行と同じです。また、4年間、EPA介護福祉士候補生として就労・研修に適切に従事したと認められる人については、試験免除で「特定技能1号」のビザに移行することも可能です。
EPAと他の在留資格の違いは、実際に配属されるまでの手順です。EPAの特定活動として働くには、人材紹介団体であるJICWELS(公益社団国際厚生事業団)に登録し、受け入れ先の介護施設等とのマッチングを待つ必要があります。また、求められる日本語能力も在留資格「介護」と同等のN2(日本語検定2級)以上なくては資格が与えられません。
在留資格「介護」に移行しやすいですが、マッチング期間が長いという点や、求められる日本語能力レベルが高い等の難しさがあります。
技能実習制度による「介護」の特徴
技能実習制度は技能移転を目的とした制度で、最長で5年までの在留期間が認められていますが、技術習得後には自国に戻って学んだ技術を還元する必要があります。他の技能実習と同様に、技能実習2号を良好に終了している場合は特定技能1号に試験なしで移行することができます。
技能実習の受入国は中国やインドネシアなど16ヶ国に限定されています。技能実習制度には1号~3号までの資格があり、1号で1年、2号で3年、3号で5年の在留期間が認められています。
他の技能実習とは異なり、入国時にN4以上の日本語能力が求められます。また、技能実習2号に移行時は、N3合格又は、技能実習の事業所の下で日本語学習を行うことが求められており、日本語能力の要求が高いことが特徴です。
在留資格「介護」と特定技能「介護業」のメリデメとは?
それぞれの在留資格で特徴が異なるように、メリットやデメリットも個々に違います。ここでは既存の在留資格「介護」と、新しい在留資格である「特定技能 介護業」が持つメリットとデメリットについて解説していきます。
在留資格「介護」のメリットとデメリット
在留資格「介護」のメリットは以下です。
- 永住権の取得が容易
- 受入れ可能国の指定が無い
- 雇用側も雇用しやすい
他の3種類と比較すると日本での永住権取得が容易です。また受入れ可能国の指定も無い為、欧米諸国からの人材流入も見込めます。日本の国家資格である介護福祉士を取得している為、介護系の事業であれば、訪問介護など特殊な業務を行う事が可能です。
デメリットは以下です。
- 採用までの時間が長い
- 留学費用が高くつきがちで介護福祉士試験に落ちると日本で働けない
- 国家資格取得後の帰国者が多い
いくら介護福祉士の資格を持っていても、いきなり外国人が日本の介護施設等に就職するのは難しいです。受入れ先の支援計画等が必要無い為、他の3種の資格よりも有用性が高い在留資格ですが、まだまだ雇用側の意識が整っていないことが原因と見られています。
日本語検定や介護福祉士資格取得の為の留学費用が高くなりがちです。
N4レベルまで到達するには、最低でも日本語の授業を300時間以上受けなくてはいけません。在留資格「介護」の取得にはN2レベル以上の日本語能力が求められますから、日本語の授業だけでもかなりの時間が必要です。
日本の国家資格は海外ではビジネスを行う上での強力な広告になります。その為、介護福祉士を取得した後は日本で就職先を探すのではなく、自国に帰って介護業を起業する人が多いのが現状です。
特定技能「介護業」のメリットとデメリット
新しい在留資格である特定技能「介護業」のメリットは以下です。
- 国家資格「介護福祉士」に合格しなくても就労が可能
- ブローカー対策や労基法違反防止対策が取られている
- 待遇面も日本人と同等以上と定められている
- 特定技能で3年以上介護職に従事し、且つ介護福祉士資格を取得出来れば在留資格「介護」へ移行可能
介護福祉士の資格が無くても介護施設(受入れ機関に限る)での就労が可能な上、待遇も日本人の労働者と同等以上と定められている為、労基法に違反するような低賃金での雇用になりません。また、生活支援機関などの設置も義務づけられている為、就労後は業務に集中しやすいというのもメリットです。
デメリットは以下です。
- 他の3つに比べると資格取得までのハードルが低いが、就労当初は介護技術が未熟な場合が多い為、仕事へのストレスが大きい
- 国家資格を取得出来れば問題ないが、取得できない場合、5年間の在留期間終了後は継続して日本で働くことができない
EPAや技術実習では政府機関や、受け入れ先からの指導など介護職に必要な技術を習得できますが、特定技能の場合は即戦力である事が求められる為、未経験で就労した場合には仕事に慣れるまでは苦労します。
国家資格である介護福祉士を取得出来れば問題ありませんが、資格取得が出来なかった場合、在留期間の更新ができず、在留期間が切れてしまうと強制的に帰国せざるを得なくなってしまいます。
介護福祉士の資格取得ありきの在留資格ということですね。
まとめ:それぞれの在留資格の特徴を理解し雇用しよう
4つの在留資格「介護」について解説してきました。
今後在留資格「介護」の取得をゴールとして、介護職で就労したい外国人を雇用する場合には、単なる人数合わせや人手不足という理由だけで外国人労働者を受入れても成功しません。外国人労働者、受入れる介護施設の両者がWIN-WINの関係にならなくては本当の意味での人材不足解消とはならないのです。
特定技能の在留資格で働いてもらいながら、介護福祉士の国家試験合格の支援を行うなど、在留期間終了後も継続して働ける支援体制の充実が、ポイントとなりそうです。