「特定技能で外国人を雇用するのに、送り出し機関は使えるのか?」
「技能実習制度との仕組みの違いは?」
人手不足解消を目的に、5年で34.5万人もの外国人受け入れを想定している特定技能。
これまで技能実習で来日していた外国人層が、特定技能に切り替わることが予測されます。特定技能の制度では、送り出し機関や監理団体をはさまずとも外国人材を雇用することができます。
では、海外の現地から外国人を特定技能で雇用するにはどうすればいいのか。これまで送り出し機関が担っていた紹介機能はどのように変わるのか。
技能実習生を受け入れている企業・団体の方が、特定技能の活用で抱く疑問について、在留資格の専門家の観点から解説します。
目次
特定技能は日本に滞在する外国人を雇用できる
はじめに、多くの方が誤解しやすい技能実習と特定技能の制度の仕組みを比べてみましょう。技能実習制度とは、途上国への技術移転という国際貢献の名目で、人材を受け入れる在留資格です。制度はあくまで「研修」の名目であり、技能実習を終えた外国人は本国へ帰国します。
対して、特定技能は人手不足解消を目的に創設された在留資格です。申請条件に学歴や職歴がないことから、多くの外国人の申請が見込まれています。研修の目的が中心だった技能実習とは異なり、就労ビザの一つです。
特定技能では、対象産業が14分野に指定され、対象職種が技能実習と比較して拡大しました。そのため、特定技能での外国人雇用に興味を示す企業・団体が増えています。2つの制度を見比べて気づく大きな違いが、特定技能は国内の外国人を雇用できるということです。
特定技能は留学生や技能実習修了生も利用できる
特定技能の在留資格は、日本国内・海外の双方から申請ができます。
想定される外国人のケースは、以下のものがあります。
【すでに日本国内にいる外国人】
- 日本で技能実習2号、3号を修了した外国人が、特定技能1号に切り替え
- 日本に留学し学校を卒業した外国人が、特定技能の在留資格で就職
【海外からやってくる外国人】
- 従来は、技能実習生で渡航していた外国人が、特定技能の在留資格を利用
- 従来は日本で留学生の在留資格で渡航していた外国人等が、試験に合格し、特定技能を利用
すでに技能実習生を受け入れている企業・団体に大きく関連するのは、Aの技能実習2号からの切り替えです。技能実習2号の修了生は、日本語・技能試験を受けずに特定技能1号の申請が可能です。また、本国へ一時帰国する必要もありません。
つまり、技能実習2号を修了した外国人が特定技能1号に切り替えれば、最長でさらに5年の雇用が可能となります。これまで就労ビザのハードルをクリアできず帰国していた留学生や、留学の在留資格で来日していた外国人も、特定技能の在留資格で働くことが予想されます。
人手不足に悩む企業・団体にとって、人材確保の解決策の一つとなるでしょう。
特定技能は技能実習制度よりもシンプルな仕組みに
次に注目したいのが、よりシンプルになった仕組みです。特定技能よりも、関与する機関が減ったことで、企業(受け入れ機関)と外国人本人が直接契約を結び働くことがより簡易になっています。
【制度に関係する機関】
技能実習
- 送り出し機関:海外の現地で技能実習者の募集・審査・教育講習・紹介を行う
- 監理団体:現地の送り出し機関と連携し、実習生を受け入れ各雇用者(実習実施者)に派遣する
- 雇用主(実習実施者):技能実習生と雇用契約を結び受け入れる
- 労働者(技能実習生):送り出し機関と監理団体を経て、雇用主のもとで有期労働契約を結ぶ
特定技能
- 雇用主(受け入れ機関):特定技能外国人と雇用契約を結び受け入れる企業・団体
- 登録支援機関:受け入れ機関から業務委託を受け、特定技能1号の外国人への支援計画を行う
- 労働者(特定技能外国人):海外・日本の双方で特定技能の申請が可能
技能実習制度は、9割を超える企業・団体が、とりまとめである監理団体を経由して実習生を受け入れる「団体監理型」を利用していました。特定技能では、派遣元の仲介役となる機関は想定されておらず、受け入れ機関である企業・団体と外国人との直接雇用が基本です。
とりわけ、日本国内にいる外国人を特定技能で雇用するケースでは、より簡易な流れになりました。
現地の送出機関の役割は募集と紹介に特化
特定技能では、以下の2点が技能実習から大きく変化したことがわかります。
- 日本国内にいる外国人を直接雇用できる
- 受入れ企業と外国人が直接やりとりしやすい
では、技能実習制度のように、海外にいる外国人を特定技能で雇用するにはどうしたらいいでしょうか?
出入国在留管理庁が発表している特定技能のパンフレットでは、送り出し機関は登場しません。しかし、海外から外国人を受け入れるために、送り出し機関は特定技能でも引き続き活躍します。そして、その役割は募集と紹介に強化されています。
以下に、送り出し機関の現地での役割変化について詳しくご説明します。
特定技能における送り出し機関の重要な3つの役割
特定技能における現地の送り出し機関の役割は、日本が各国と締結した協定覚書で確認できます。協力覚書では、特定技能に関する各国の連絡窓口を定め、悪質な仲介機関の排除を掲げるとともに、適切な送り出し機関の認定および情報共有を約束しています。
それによると、送り出し機関の役割は、技能実習と比較して以下のように変化します。
【技能実習の送り出し機関の役割】
- 募集
- 技能実習1号への講習
- 送出し
【特定技能での送り出し機関の役割】
- 募集
- 日本語・技術試験の合否の確認
- 紹介
外国人へ講習の一部を担当していた技能実習の役割が、特定技能ではなくなりました。現地の送り出し機関は、基準に沿って外国人を募集し、日本語・技術水準試験に合格しているかを確認し、日本の受け入れ機関に紹介を行う役割を果たします。
つまり特定技能の仕組みでも、海外の現地で外国人の募集と紹介を行うのは原則送り出し機関です。それを踏まえると、特定技能での外国人の現地採用は、以下のような流れになります。
【特定技能外国人を海外から採用する】
- 現地の送り出し機関が、募集を行う
- 日本語および技能水準試験の合否を確認
- 日本の受け入れ機関へ紹介
- 受入れ機関と特定技能外国人の間で直接雇用契約を結ぶ
- 支援計画の実施(特定技能1号に対してのみ)
このとき注意するべき点が一つあります。
それは、送り出し機関が必須かどうか締結国によって対応が異なることです。
協力覚書の締結国 (協力覚書公表順 参考:出入国在留管理庁 http://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/nyuukokukanri05_00021.html )
- フィリピン
- カンボジア
- ネパール
- ミャンマー
- モンゴル
- スリランカ
- インドネシア
- ベトナム
- バングラデシュ
- ウズベキスタン
- パキスタン
- タイ
- インド
以前は、フィリピンでは5名以下の紹介に送り出し機関は不要でしたが、このガイドライン規定は当面運用を見合わせることとなっており、現在は人数によらず送り出し機関が必要となっています。
海外から特定技能外国人を受け入れるには、現地の認定送り出し機関を利用できます。利用が必須かどうかは、国際人材協力機構などのホームページ(https://www.jitco.or.jp/ja/skill/send.html )から、相手国の最新の規定を確認してください。
重要点|特定技能1号への支援計画が受入企業の義務に
特定技能で外国人を雇用する受け入れ機関にとって重要なポイントが、特定技能1号への支援計画です。受入れ機関は、特定技能で雇用する外国人に対して、入国前・入国後の職務上および生活上必要なサポートの実施責任を負います。
支援計画とは、技能実習でいう教育講習に近しいものです。しかし現地の送り出し機関は、特定技能で企業の代わりに支援計画を実施できません。支援計画の作成と実施ができるのは、受け入れ機関か、委託を受けた登録支援機関のみです。
支援計画のポイントと登録支援機関について、下記に説明します。
支援計画の費用は受け入れ機関が負担する
特定技能1号へ実施する支援計画の費用は、受け入れ機関である企業が負担します。手数料や支援料の形式で、義務となっている費用を外国人本人に負担させることは禁じられています。
たとえば、出入国時の空港送迎は支援計画に含まれています。この際のガソリン代や電車賃を外国人に負担させてはいけません。
登録支援団体に支援の全部を委託することが可能
受入れ機関が支援計画を実施するのが困難な場合、登録支援機関に支援計画の全部を委託できます。
登録支援機関は届出制であり、基準を満たした企業・団体・個人が認定されます。なお、基準を満たせば技能実習の監理団体が登録支援機関になることもできます。登録支援機関が、委託された支援業務を第三者にさらに委託することはできません。
そのため、たとえば委託を受けた監理団体が、現地の送り出し機関に入国前のオリエンテーション支援だけを依頼するのは、認められないと考えられます。しかし、通訳の役割で支援計画の補助を依頼することは可能です。
まとめ:特定技能はより幅広い企業が活用できる制度
特定技能は、ビルクリーニング、飲食製造や宿泊といった、技能実習よりも幅広い分野で外国人人材の受け入れができる制度です。日本国内からの採用が可能となるため、技能実習よりも特定技能の制度のほうが適していると感じる企業・団体も出てくるでしょう。
その際、技能実習とは異なり、受け入れ機関と外国人の直接契約が基本の制度であることを理解しましょう。また、特定技能1号の支援義務を受け入れ機関が負っていることをしっかり確認してください。支援義務の費用を外国人に負担させることは、認められません。
現地の送り出し機関の紹介を利用するにせよ、受け入れの支援体制を整え、必要であれば登録支援機関との連携するのがスムーズな運用の鍵です。