日本の労働体系を新時代のフェーズに移行させるべく、入国管理法や労働法などの法整備を加速させ、外国人労働者の受け入れを強化しています。一部で“事実上の移民政策”との批判もある外国人の受け入れですが、外国籍の労働者を雇用する側にも、法的に正確な見識と労働環境の整備が求められています。

現在、世界で日本政府が承認をしている国家は196カ国を数えます。 政治的な判断で“国家”としては承認していないものも含め約200もの国と地域の中で、日本に在留して就労することが認められている国家はどのくらいあるのでしょうか?

そして、外国人が日本で働くときに必要な「就労ビザ」の性質と、「技能実習生ビザ」や2019年から新しく施行された「特定技能ビザ」の対象国を解説していきます。

原則どの国籍でも日本で働くことができる

原則どの国籍でも日本で働くことができる

2020年10月末の統計では、外国人労働者数は1,724,328人(前年同期比65,524人増、4.0%の増加) これは2007年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新しました。
一方、外国人労働者を雇用する事業所数は267,243か所で、こちらも前年同期比で10.2%増加しています。

他の国と同様に、日本で外国人が働く場合には「就労ビザ」が必要です。一口に就労ビザと言いますが、22種類に分類されており、必要な在留資格や労働法の条件を満たしていれば、基本的にどの国籍の外国人でも取得できます。また日本で働くことができる対象国の制限というものはありません。

しかし実際は、外国人労働者の流入がのちの難民・移民問題に発展しないように、在留資格や労働法の壁はある程度高く、決して簡単に外国人が定住でき、誰でも日本で働けるということにはなっていません。

就労ビザは22種類ある

日本に一定期間滞在することのできる在留ビザには33種類あり、その中の22種類に指定された職種が、その範囲内で就労を許可されています。それでは就労ビザとして認められている各職種を見てみましょう。

<各種 就労ビザ>

【外交】 外国政府の大使、公使、総領事、代表団構成員およびその家族
【公用】 外国政府の大使館、領事館の職員、国際機関等からの公の用務で派遣されるもの及びその家族
【教授】 大学教授や助教授・助手など
【芸術】 作曲家や写真家、彫刻家など芸術に関する者
【宗教】 宗教団体から派遣された僧侶や宣教師等
【報道】 外国の報道機関の記者、カメラマン
【経営・管理】 会社経営や役員、取締役等
【法律・会計業務】 弁護士、会計士、税理士等(日本の資格を有することが必須)
【医療】 日本の資格を有する医師や看護師、薬剤師、療法士等医療現場に関わる者
【研究】 政府関係機関や私企業などの研究者
【教育】 学校教員やそれに準ずる学校での語学教育に携わる者
【技術・人文知識・国際業務】 機械工学等の技術者や営業、通訳などの文系専門職(その他の就労ビザに当てはまる職種を除く)
【企業内転勤】 外国で就業している者が日本国内にある事業所等へ転勤する者
【介護】 介護福祉士
【興業】 プロスポーツ選手や歌手、俳優など、演劇、演奏等の興業に関わる者
【技能】 調理師や職人等の、特殊な分野において熟練した技能が必要な職種に携わる者
【高度専門職】 高度外国人人材(法務省が指定するポイント制における評価で一定値を超えている者)
【技能実習1号、2号、3号】 技能実習生(受け入れ企業と雇用関係を結び、技術や技能を学ぶために一定の期間日本に滞在している研修生)
【特定技能1号、2号】特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人

日本政府が就労を認めている各職種は上記のとおりです。

この他に資格外活動として留学生などの在留資格を持つ外国人が、その資格の活動を妨げられない範囲で労働を行うケースもあります。(留学生の場合週28時間以内などの制限があります)多岐に渡り細かく就労を認められていますが、現在の日本の“人手不足”を解消するために、外国人労働者を雇用したい業種には偏りがあります。

生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みとして、特定技能が新たな在留資格として設けられました。

日本で働く外国人労働者の出身国ランキング

現在172万人もの外国人が日本国内で就労しています。バブル期に多くの日系ブラジル人が日本に出稼ぎに来るようになって、局地的にブラジル人街が誕生し、大阪府八尾市と神奈川県高座渋谷では、インドシナ難民の受け入れた時代から大きなベトナム人コミュニティーが出来ています。

言葉や宗教、生活習慣が異なる日本で働くことは、我々日本人が想像する以上に困難なことも多く、日本の各地に大小様々な外国人のコミュニティーが誕生しています。

では現在、日本で就労している外国人にはどのような国籍がどの程度の割合でいるのでしょうか?厚生労働省の発表した労働者数の国別の順位を見て見ましょう。

(厚生労働省 2020年10月統計)

1位  ベトナム 443,998人(25.7%)

2位  中国(香港等を含む) 419,431人(24.3%)

3位  フィリピン 184,750人(10.7%)

4位  ブラジル 131,112人(7.6%)

5位  ネパール 99,628人(5.8%)

6位  韓国 62,516人(4.3%)

7位  インドネシア 53,395人(3.1%)

8位  ペルー 29,054人(1.7%)

これまでは中国が1位でしたが、2020年調査では初めてベトナムが約44万人で1位となりました。このうち49.2%が技能実習、28.7%が資格外活動のうちの留学となっている。技能実習生の増加と、留学生の増加がベトナム人労働者の増加の原因となっている。

また、増加率の高い、ベトナム、ネパール、インドネシアの三国は、共通して技能実習や留学の占める割合が大きくなっており、今後もこれらの国からの外国人労働者は増加が見込まれます。2019年4月に創設された「特定技能」の在留資格で労働する外国人数は、7,262人となっています。

「特定技能ビザ」と「技能実習生ビザ」の対象国

2019年4月から新しく施行される「特定技能ビザ」では、5年間で最大34万5150人の受け入れを見込んでいます。既存の技能実習と合わせて、外国人就労にまつわるビザとその対象国について解説していきます。

「特定技能」の対象国はイラン・トルコを除く

「特定技能ビザ」には、技能や日常会話レベルの日本語能力(日本語能力試験ではN4とされています)が求められ、その報酬額は日本人と同等以上と定められました。またビザの期間内であれば同じ分野での転職が認められています。

既存の技能実習生ビザは受入国が限定されているのに対し、特定技能ビザは国籍を問わない点が特筆されます。しかし、強制退去となった場合の自国民の身柄の引き取りに非協力的という理由から、イランとイスラム共和国の2カ国に対しては、例外的にこの資格から除外されました。国際慣習上は、送還された自国民を受け入れる義務があるため、強制退去となった自国民の円滑な受け入れに応じる国の旅券を所持していることが、特定技能ビザ取得の条件として定められています。

また、日本語能力を測る試験として、日本語能力試験に加えて国際交流基金が実施する日本語基礎テストも認められています。このテストは、フィリピン、カンボジア、インドネシア、モンゴル、ミャンマー、ネパール、タイの7カ国で実施されています。

「技能実習生」の二国間取り決め締結国は14カ国

2017年11月に施行された「外国人技能実習制度」は、日本が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくために制定されました。技能、技術または知識を開発途上国などへ移転し、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としています。

外国人の技術習得による人材育成を「国際貢献」と捉え、日本と相手国との国家間の取り決めのもと、実習生の受け入れを行っています。団体監理型での受け入れの場合、技能実習制度の締結のない無い国からは技能実習生を呼ぶことはできませんが、今後の法改正でその対象国の拡大も検討されています。
現在、技能実習生の受入国は以下の14か国です。

ベトナム、カンボジア 、インド、フィリピン、ラオス 、モンゴル、バングラデシュ 、スリランカ 、ミャンマー、ブータン、ウズベキスタン 、パキスタン 、タイ、インドネシア

また、旧制度に基づく送り出し機関のある中国、ネパールからも技能実習生を受け入れている他、締結のないマレーシア、キルギス、ペルーからも技能実習生を受け入れています。

まとめ

「労働者不足の解消」という課題は日本に限ったことではありません。ヨーロッパなどの先進諸国はもとより、韓国など日本と同じように少子高齢化問題を抱える国々では、将来の労働者確保の気運が益々高まっています。

外国人労働者の供給元のひとつであるASEAN諸国では、語学学校や介護など専門性の高い教育機関などが相次いで開校し、送り出し機関と連携して人材の確保・育成が活発になっています。こうした“人材の争奪戦”とも言うべき事態が開発途上国などで進んでいます。

新しく施行される「特定技能ビザ」での就労は、過去に技能実習生などで日本での就労経験のある外国人も対象になります。これは当該国の発展のために日本で技能を身に付け帰国したものの、その後再び日本で就労を希望する場合に、その外国人を受け入れるべく新たに「特定技能ビザ」を制定して再来日を許可するというものです。

「再び日本で働きたい」と外国人に選んでもらえるよう、労働環境や給与体系、優遇措置などの更なる充実が官民双方に求められています。

大房行政書士法人代表 / 株式会社KMT取締役
行政書士 大房明良 監修

東京都大田区蒲田に生まれ、大学在学中に訪れたカンボジアで学校建設ボランティアに参加し、貧困問題に興味を持つ。2016年に行政書士事務所を開業し、カンボジア語が話せる行政書士として入管業務を専門に行う。現在は特定技能申請をメイン業務とし、2023年5月現在で申請数は4500件を超える。
また、取締役を務める株式会社KMTでは、約600名の特定技能外国人の支援を行っている。