2018年12月8日に、「出入国管理及び難民認定法 及び 法務省設置法」の一部を改正する法律が成立しました。この出入国管理及び難民認定法(以下:入管法)の改正案が2019年4月施行され、特定技能という新しい在留資格が創設されました。

新在留資格では、日本の人材不足の問題が深刻化している業種に限り、これまで外国人労働者の労働が認められていなかった産業分野でも、労働が認められるようになりました。日本が抱える社会問題、特定技能1号と特定技能2号の違い、技能実習制度との違い、周辺諸国の外国人労働者政策、幣団体独自のサポートも踏まえながら、解説していきたいと思います。

目次

新在留資格”特定技能”は人材不足解消への切り札?

新在留資格”特定技能”は人材不足解消への切り札?

特定技能は、2019年4月施行の出入国管理及び難民認定法において、新たに創設された在留資格です。2018年11月2日に閣議決定、同月27日衆議院通過、翌月8日に参議院で可決され成立しました。

人材を確保することが難しい業種(14職種)に限り、外国人による人材の確保を目的とした在留資格となります。初年度で4万人を受け入れ、今後5年で最大34万人の雇用を見込んでいました。

しかし、実際の受け入れ数は、2020年12月末での特定技能1号における在留外国人数は15,663名と発表されています。(2020年12月末 出入国在留管理庁速報値)

特定技能1号と2号の異なる点とは

特定技能1号と2号の大きな相違点は在留期間の上限です。

〈特定技能1号〉

技能水準:受け入れ分野で即戦力として活動するために、必要な知識又は経験を有すること

日本語能力:ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有すること。

在留期間の上限:最長で5年間

家族帯同:基本的に不可

(留学生が大学卒業後などに特定技能に移った場合、扶養する家族も日本に在留できる措置を取っている場合もあります。)

〈特定技能2号〉

技能水準:受け入分野で熟練した技能を有すること

在留期間の上限:在留期間の上限は設けない

家族帯同:可能

特定技能2号は、在留期間の上限を設けないとなっており、永住権の取得も目指せる在留資格となっています。

特定技能1号になるためには、元技能実習生がスムーズ

特定技能1号になるためには、2通りのパターンが考えられます。1つ目は、元技能実習生が、特定技能に切り替えるパターンです。

特定技能1号では、試験(日本語+技能)が設けられていますが、技能実習2号を修了した外国人労働者(元技能実習生で3年働いた人)は、同業種であれば、この試験は免除されます。しかし、元技能実習生でも、他業種で就業したい場合は試験を受けることが必須となります。

もう1つは、試験(日本語+技能)を受け、合格するという方法です。元技能実習生で、3年以上の就業経験のある人であれば、試験の免除に加え、仕事の経験値、逃亡や日本の生活への環境適応等、心配な点が軽減されると考えられます。

特定技能と技能実習制度との違い

まず技能実習とは、

”外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております。”(引用:厚生労働省ホームページより)

技能実習制度は、日本の技術を母国(発展途上国)へ帰国して、経済発展につなげてもらうことが目的であるため、工場や飲食店等での労働は認められていませんでした。

特定技能では、日本における人材不足を確保することが目的の在留資格のため、上記のような産業分野における労働が認められました。そのため、特定技能と技能実習制度は、全く異なる在留資格といっても過言ではありません。

雇用形態と待遇は?派遣もOK?

雇用形態は、原則的に受け入れ機関との直接雇用となっていますが、産業職種に応じて派遣形態も可能となります。待遇面においては、就労系の他在留資格と同様に、日本人と同等以上の報酬や雇用契約で一定基準を満たす必要があります。

そのため最低でも都道府県で定められている最低賃金以上の給与は支払わないといけません。また、特定技能では”受け入れ機関”または”登録支援機関”が中心となり、日常生活はじめ社会生活上の支援・サポートすることとなります。

では、この”受け入れ機関”、”登録支援機関”とはどのような役割なのかを解説していきます。

特定技能所属機関は、雇用契約を結ぶ企業などのこと

外国人と直接雇用契約を結ぶ企業などが、この特定技能所属機関に該当します。受け入れ機関は、先程述べた労働関係や社会保険等の法令の遵守の他に、”支援計画”に基づき適正な支援・サポートを行える能力・体制があることが求められます。

この支援計画とは、

  • 入国前の生活ガイダンスの提供
  • 外国人の住宅の確保
  • 在留中の生活オリエンテーションの実施
  • 生活のための日本語習得の支援
  • 外国人からの相談・苦情への対応
  • 各種行政手続についての情報提供
  • 非自発的離職時の転職支援
  • その他

上記のような支援計画の作成・実施が求められています。

この支援計画の作成・実施を代行できる機関が、次に説明する”登録支援機関”となります。

支援計画の作成・実施を行う登録支援機関

支援計画の作成・実施を行う登録支援機関

受け入れ企業に代わって、支援計画の作成・実施を行える機関が”登録支援機関”となります。登録団体機関として登録できる対象は、支援体制を整えた「社労士」、「業界団体」、「民間法人」等の幅広い主体を想定としています。

受け入れ可能な職種は14職種

  • 介護
  • ビルクリーニング
  • 農業
  • 漁業
  • 飲食料品製造業(水産加工業含む)
  • 外食業
  • 素形材産業(鋳造など)
  • 産業機械製造業
  • 電気・電子情報関連産業
  • 自動車整備業
  • 航空業(空港グランドハンドリング・航空機整備など)
  • 宿泊業
  • 建設業
  • 造船・船用工業

の14職種となります。

日本語の試験と技能の試験=特定技能評価試験

特定技能評価試験は、対象職種である14職種の業界団体が、国が求める技能水準と日本語能力の基準をもとに、”技能”と日本語”の試験を作成・実施します。

特定技能1号における技能水準と日本語能力の基準は下記の通りです。

技能水準:受け入れ分野で即戦力として活動するために、必要な知識又は経験を有すること

日本語能力:ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有すること

となっております。

日本語の試験は2種類

日本語能力の水準については、

  • ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など直接関係がある領域に関する、よく使われる分野表現が理解できる。
  • 簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応ずることができる。
  • 自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる。

という尺度をもって、測られます。(出入国在留管理庁 「特定技能」に係る試験の方針について)

具体的には、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)又は、日本語能力試験(JLPT)のN4レベル以上の合格が求められます。

また、介護分野では以上に加えて、介護日本語評価試験に合格することも求められます。

国際交流基金日本語基礎テスト

日本語を母語としない外国人を対象とします。その中でも、主として就労のために来日する外国人を対象としています。

このテストは、コンピューター・ベースト・テスティング(CBT:Computer Based Testing)方式により行われます。各国のテスト会場でコンピューターを使用して出題、解答します。

テスト終了時の画面に総合得点と判定結果が表示され、その場で合否を確認することができます。また、会場によっては毎日試験を実施しているため、自分の日程に合わせて試験を受験することが可能です。

日本では、全47都道府県で受験が可能です。

海外では、

  • カンボジア
  • インドネシア
  • モンゴル
  • ミャンマー
  • ネパール
  • フィリピン
  • タイ

の7か国、17の都市で受験が可能です。

この試験の難易度は、CEFR、JFスタンダードA2のレベルに相当します。

A2

・ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる。

・簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応ずることができる。

・自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる。

(国際交流基金 日本語基礎テスト レベルの目安)

日本語能力試験

日本語能力試験は、日本語を母語としない人の日本語能力を測定し認定する試験として、国際交流基金と日本国債協会(限日本国際教育支援協会)1984年に開始した、世界最大規模の日本語の試験です。

7月と12月の年2回試験が実施されています。(海外では年に1度の開催の都市もあります。)

日本全国と、全世界の90以上の国と地域で試験が実施されています。

特定技能1号には、N4レベル以上の合格が求められます。

N4レベル

企保的な日本語を理解することができる

読む:基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。

聞く:日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。

(日本語能力試験 N1~N5:認定の目安)

特定技能評価試験(技能)

技能水準では、受け入れ分野で即戦力として活動するために、必要な知識又は経験を有することが求められており、各分野で試験が実施されています。

これまでは、日本国内での受験対象者は、「中長期在留者及び過去に中長期在留者として在留していた経験を有する方」などに限られていましたが、2020年4月からは、国内での受験対象者が「在留資格を有する者」と変更になりました。これにより,過去に中長期在留者として在留した経験がない方であっても受験を目的として「短期滞在」の在留資格により入国し,受験することが可能となります。

※現在新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、試験の延期、中止の場合があります。各分野における試験の実施状況については、実施機関のホームページ等でご確認ください。

  • 介護

学科試験(介護の基本、こころとからだのしくみ、コミュニケーション技術、生活支援技術)+実技試験(判断試験等)が実施されています。

介護分野では、通常の日本語能力に加えて介護日本語評価試験への合格も求められます。

CBT方式にて実施され、これまで日本全国とフィリピン、カンボジア、ネパール、インドネシア、モンゴル、ミャンマー、タイで試験が実施されています。

(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_000117702.html )

  • ビルクリーニング

日本語による実技試験(判断試験+作業試験)が行われています。

これまで、日本国内に加えてミャンマー、フィリピンでも試験が実施されています。

(全国ビルメンテナンス協会https://www.j-bma.or.jp/qualification-training/zairyu )

  • 農業

国内に加えて、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、タイ、ミャンマーでの試験の実施が予定されています。これらの国の言語で受験が可能です。

(全国農業会議所 https://asat-nca.jp/ )

  • 漁業

これまではインドネシアのみで実施されていましたが、2021年3月より日本でも試験が実施されています。CBT方式の学科と実技の試験です。

(大日本水産会 https://suisankai.or.jp/ )

  • 外食業、飲食料品製造業(水産加工業含む)

日本国内に加えて、外食業はネパール、ミャンマー、タイ、インドネシア、フィリピン、カンボジア、飲食料品製造業はインドネシア、フィリピンで試験が実施されています。

2021年度は年間で3回の試験が予定されています。

(外国人食品産業技能評価機構 https://otaff.or.jp/ )

  • 素形材産業(鋳造など)、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業

職種ごとに、学科と実技の試験が実施されています。国内に加えてインドネシアとフィリピンでも試験が実施されています。

(経済産業省 https://www.sswm.go.jp/exam_f/examination_index.html )

  • 自動車整備業

2019年12月よりフィリピンで試験が開始され、2020年9月からは日本でも試験が受験可能となりました。自動車整備士技能検定試験3級の合格でもその技術を証明することができます。

(日本自動車整備振興会連合会 https://www.jaspa.or.jp/mechanic/specific-skill/index.html )

  • 航空業(空港グランドハンドリング・航空機整備など)

これまで、航空機整備の試験はモンゴルで、空港グランドハンドリングの試験は東京とフィリピンで実施されました。

(日本航空技術協会 https://www.jaea.or.jp/ )

  • 宿泊業

現在は日本のみで、試験が実施されています。学科試験と口頭による判断試験の実技試験が行われています。

(宿泊業技能試験センター https://caipt.or.jp/ )

  • 建設業

職種ごとにCBT方式の学科試験と、実技試験が行われています。

2020年8月より試験が実施されており、職種によってはまだ試験が開催されていないものもあります。

(建設技能人材機構 https://jac-skill.or.jp/kokkousyou.html )

  • 造船・船用工業

申請場所に試験監督者を派遣する形で試験が実施されています。国内に加え、フィリピン、インドネシアで試験の実施が可能です。

(日本海事協会 https://www.classnk.or.jp/hp/ja/authentication/evaluation/index.html )

出入国管理及び難民認定法(入管法)の由来や意味

入管法が施行された背景ですが、1951年10月6日”出入国管理令”として制定され、同年11月1日に施行されました。

そして1981年に出入国管理制度に難民認定制度を加える改正の際に”出入国管理及び難民認定法”と改められました。

1951年は、日本は連合国最高司令官の指揮下にあり、国家主権は制限され、出入国管理に関しても連合国側が掌握していましたが、翌年1952年の”日本国との平和条約”の締結が迫り、日本が主権国家として出入国管理するときに備え、”出入国管理令”が政令として公布されました。

また、2009年7月、”出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律”が公布され、外国人登録法に代わり”在留カード”制度が取り入れられ、在留管理のシステムも大きく変わりました。

入管法の目的と内容

入管法の目的は、入国・出国するすべての人の出入国の公正な管理を図るとともに、難民の認定手続を整備することとなっています。

具体的には、

1.外国人の入国、在留、出国について→外国人の入国、上陸、在留、出国、強制退去の実体規定と手続規定

2.日本人の出国、帰国について→日本人の出国、帰国の確認を定める手続規定

3.難民の認定について→難民認定の手続きを定める手続規定

となります。

入国管理局は全国に61か所設置

入国管理局は全国に61か所設置

入管法に規定する出入国管理及び難民認定を行う機構として、法務省には入国管理局が設けられています。

また、地方入管局といわれている地方入国管理局が8局(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡)、同支局は7か所(成田空港、羽田空港、横浜市、中部空港、関西空港、神戸市、那覇市)、

収容所は2か所(東日本入国管理センター:茨城県牛久市、大村入国管理センター:長崎県大村市)、

地方入管局及び同支局の下に出張所が61か所設置されております。

入国者収容所および地方入管局、同支局、出張所には、入国審査官及び入国警備官が配置され、入管法に定める職務を行っております。

入国審査官の組織

入国審査官のうち、法務大臣から主任審査官、特別審理官、難民調査官と指定されたものは、下記の職務を行います。

主任審査官:収容令書・退去強制令書の発付、仮上陸の許可、仮釈放の許可等

特別審査官:上陸または退去強制手続きにかかる口頭審理

※口頭審理とは、当事者の口頭による弁論や証拠調べにより審理を行う方式のことです。

難民調査官:難民認定にかかる調査等

の職務を行います。

入国管理局は出入国在留管理庁へ改編

2019年4月から、外国人労働者に受け入れ拡大などに対応するため、現在の入国管理局を「庁」に格上げし、「出入国在留管理庁」と組織改編されました。これまで法務省の補助期間としての位置づけである内局から外局へと変わり、省と並ぶ国の行政機関となります。

この格上げにより、外国人の雇用状況の把握そして支援する「在留管理支援部」と、入国管理業務を行う「出入国管理部」を庁内に設置し、新設の”特定技能”により更に増加すると見込まれる外国人労働者の事務手続きや取り締まり、生活環境の整備の対策を行っています。

33種類ある在留資格

在留資格とは、外国人が日本に滞在する間、一定の活動をすることができる”入管法上の資格”あるいは一定の身分または地位を有する者として在留することができる”入管法上の法的地位”で、33種類の在留資格が定められています。

外国人は、上陸許可に際し入国審査官により決定された在留資格または在留許可に定められた在留資格のいずれかをもって、在留し、在留中はその在留資格に許可された活動を定められた期間で行うことができます。

また、在留資格により認められていない活動を行う場合や、在留期間の更新を行う場合には、法務大臣の許可が必要となります。同時に2つの在留資格をもつことはできないため、他の在留資格が認めている活動も行いたい場合には、資格外活動の許可を申請する場合があります。

外国人がアルバイトをする場合は、資格外活動の許可が必須

資格外活動とは、本来の在留活動がおろそかにならない程度の収益・就労活動(アルバイトなど)を行うことができる制度です。また、風俗営業関係の業務に就くことはできません。

この資格外活動の許可を得るためには、地方入管局・支局・出張所に申請して、”資格外活動許可書”または”資格外活動許可”により新たな在留カードが交付され、”資格外活動”の許可を受けることができます。

許可の申請にあたっては、手数料は不要となります。※短期滞在、研修、技能実習は、それぞれの在留資格の性質上、資格外活動は許可されていません。

資格外活動については、こちらの記事にまとめています。

日本が抱える”労働力人口の減少”

(「労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)平均結果の概要」より)

2020年、日本の労働力人口(※1)は8年ぶりに減少となった。今後も少子高齢化に伴う高齢者の増加と少子化により、労働力不足は社会問題として取り上げられております。

労働力人口とは…満15歳以上で労働する意思と能力を持った人の数を指します。労働力人口には、働く意思と能力が合って実際に働いている人と、働く意思と能力はあるけれども失業している人が含まれています。

労働力が減少すると、国内内需の増加を見越した新規の投資も控えるため日本の経済成長率は鈍化します。

経済成長率が鈍化すれば、国際競争力は下がるうえに、税収も下がり、国民の生活を支える社会保障費が不足し、様々な社会問題が発生します。

さて、この様々な社会問題とは…

賦課方式が取り入れられている年金制度

現在の年金制度は、現役世代が保険料を納め、その保険料が高齢者の年金支給に充てられる”賦課方式”が採用されています。つまり、現役世代の支払った保険料が積み立てられるのではなく、そのまま年金受給者へと渡る制度です。

しかし、2030年においては年金受給者が増え、年金受給者を支える現役世代が減少することから、より緊迫した状況になることは確実です

そのため、受給開始年齢の引き上げや支給額の減少も想定されています。

健康保険制度が引き起こす医療サービスへの負担

医療サービスに対する負担も懸念する材料です。

現在の健康保険制度では、自己負担が1~3割、残りは国が負担する仕組みですが、総人口に対する高齢者の比率が高まることで、国の医療負担が重くなり、健康保険制度が立ちいかなくなる可能性も指摘されています。

サービスを提供する医療機関も十分な人材を確保できず、経営が難しくなっていくリスクもあります。問題を解決できないままケアを必要としていく高齢者だけが増え続ければ、希望する治療を受けられない人が出てくる可能性もあります。

現時点でも、医療従事者は都心部に集中し、地方都市における医師・看護師不足も深刻化しています。

介護業界の人材不足への対策

介護業界の人材不足への対策

介護業界では、資格制度の見直しや外国人労働者を増やすなど様々な人材確保への対応を行っています。そのひとつとして、介護分野の人材不足を解消するため、「介護職員処遇改善加算」という制度のもとで、介護福祉士の賃金を上げる政策が、2019年10月から行われています。

しかし、勤続年数の条件から、疑問をもつ介護士もおり、人材不足を補う目途は現在のところ立っていないのが現状です。

介護を職とする働く人の数は年々増加していますが、団塊の世代が75歳以上となり、要介護者も急速に増えていくと予想される2025年においては、人材が大いに不足する状況に直面すると予想されています。

建設業界の離職率の原因は、3K

建設業界でも就業者数の減少は年々進んでいます。1997年を境に減少し、2016年では1997年の半数程度まで減少しています。平均年齢の高い建設業においても、人材(後継者)を十分に確保することが年々難しくなってきました。

東日本大震災の復興需要や2020年東京オリンピックパラリンピックにより、建設需要は高い水準を維持していましたが、20代30代の労働者は過去20年間で半減しております。人手不足の要因としては、3K「きつい」「汚い」「危険」というネガティブなイメージと、建設業界の昔ながらの価値観と若者の価値観が合わなくなってきており、若年就業者の減少、離職率の上昇が指摘されています。

人材を確保するために政府の取り組みとして、国土交通省と厚生労働省は連携して、建設業魅力発信キャンペーンなどの広報活動や若年入職者の実技指導など、人材の育成に取り組んでいます。

日本で働く外国人労働者数、第1位はベトナム

日本で働く外国人労働者数は、2020年10月末の報告で約172万人となっております。過去最高を更新しているものの、新型コロナウイルス感染症の影響等による影響から、その増加率は低下しています。(厚生労働省ホームページより)

2019年調査までは、中国(香港含む)の労働者数が最も多くなっていましたが、最新の調査では、ベトナムが中国の労働者数を上回り1位となっています。ベトナムと中国で全体の5割を占めています。

技能実習制度や特定技能の制度をつかって入国している方が多く、製造業や建設業の分野で活躍しています。

3位のフィリピンですが、介護業界で活躍されている方が多く、その理由のひとつとして、EPA(経済連携協定)、技能実習制度、在留資格「介護」による3つの受け入れが進められているためです。また、2019年からは特定技能としても介護分野での受け入れが開始され、まだまだこれから増えていくと予想されています。

送り出し国から受け入れ国へ、韓国の雇用許可制

現在の韓国は、非熟練外国人労働者の受け入れ国となっていますが、60年代~80年代中頃までは労働力を送り出す”送り出し国”でした。主に旧西ドイツや中東諸国へ炭鉱労働者や看護師を送り込んでいました。

しかし80年代後半以降、海外から韓国に出稼ぎ目的で入国する外国人が増加し、不法就業する外国人労働者が急速に拡大していきました。その要因となったのが、製造業を中心とする人手不足が問題となり、それを補うために低賃金の労働者を海外からの労働者でカバーしていたことにあります。

さらに1989年の韓国国民の海外旅行自由化に伴い、相互ビザ免除協定締結国が拡大し、東南アジアや中央アジアの外国人も韓国への入国が容易となり、その結果、韓国は出稼ぎ労働者が容易に入国して仕事を見つけることができる国となりました。

不法滞在者に悩まされた韓国政府はビザ発給対象者の年齢を制限したり、一部民族の観光目的のビザ発給の停止にも踏み切りました。

当時の韓国の魅力

なぜ韓国が出稼ぎ労働者をひきつける国となったのでしょうか。まずひとつめは、給与面です。出稼ぎ労働者が母国で得られる賃金の3倍~8倍になるためです。

ふたつめが雇用の機会です。規制も日本はじめヨーロッパやアメリカに比べて緩いことや、中東地域では労働需要にも変動がみられるため、より雇用機会のある韓国へと外国人労働者が流入したと考えられています。

産業技術研修生制度の導入

1991年に”産業技術研修生制度”を導入し、海外に投資している企業を対象に、海外の子会社で雇用した労働者に限り、最長12か月まで韓国国内に滞在するのを許可するというものでありました。不法滞在には取り締まりを強化する一方で、産業技術研修制度を導入することで、国内の労働力不足に対処しようと考えていました。

これにより深刻な人手不足の状況に陥ってた中小企業には、外国人労働者を研修生として受け入れることが可能となりました。産業研修制度を導入したことにより、労働送出国から受け入れ国として動き出しました。

産業研修制度は、非熟練外国人労働者を合法的に確保するというものでしたが、非熟練外国人労働力は原則的に受け入れないという韓国政府の方針に基づき、研修生として入国が許可されました。しかし実際には、研修生のはずが低賃金労働者として使い捨て労働として企業からは扱われていました。労働関連法上の適切な保護を受けれず、手当てや外国人への暴言や暴力等が問題となりました。

不法滞在として就業する外国人労働者もまた、賃金未払いや不当解雇、暴行などの劣悪な労働条件や人権侵害にさらされていました。

外国人の人権問題への対策

90年代後半になると社会運動団体などの支援活動を行う団体が数多く設立され、国内外から人権擁護団体からの指摘も受け、韓国政府の人権政策を厳しく問われるようになりました。

その後、外国人労働者対策協議会などの運動団体が結成され、外国人労働者保護法といった外国人労働者関連法の制定を政府に強く進めていきました。

1997年の通貨危機を乗り越え、2000年以降、急速に景気が回復すると不法就業者は更に増加してしまいました。研修生のみならず、不法就業者に対する人権侵害の問題が海外のマスメディアや人権擁護団体によって大きく取り上げられるようになり、当時の金大中政権の外国人労働者をめぐる人権政策は厳しく問われることとなりました。

2001年に独立機関として設立された”国家人権委員会”もまた、深刻化する外国人の人権問題に対し、労働者としての権利保障や外国人労働者に対しての差別の是正を政府側へ勧告しました。

盧武鉉政権の誕生

そして、2003年盧武鉉政権の誕生により、それまでの研修制度は大きく変わることとなります。同年8月、”雇用許可制”について定めた”外国人労働者の雇用等に関する法律(外国人労働者雇用法)”が公布されました。

雇用許可制とは、国内労働者の確保が難しい産業に、非熟練外国人労働者を有期契約の正規労働者として、政府の管理下で受け入れるというものです。

雇用許可制の導入により、外国人労働者の権利が保障され、人権保護や社会保障面では大幅な処遇改善がなされました。しかし、3年以上の在留延長不可、就業期間中の家族の同伴・呼び寄せの禁止、就業可能な業種の制限などにみるように、雇用許可制は短期循環原則に基づき、定住化を防ぐ制度となっており、移民の受け入れを意図したものではありません。

労働者の自己都合による転職も3回まで認められているために、雇用する企業側も転職されないように給与のみならずインターネット等の生活環境も整えています。そのため外国人労働者からの支持は高く、給与面及び生活環境もいいために、日本より韓国行きを志望する人が多くなってきています。

台湾では既に単純労働が認められている

台湾で働いている外国人労働者は、約67万人といわれています。東南アジアからの労働者が多いのですが、1位はインドネシア、2位はベトナム、3位がフィリピンという労働者の割合となります。

求人と求職者(外国人労働者)の間に民間仲介業者が介在し、仲介手数料・研修費など外国人労働者の負担は大きいといわれています。この67万人の労働者の割合をみていくと、3分の2が製造業、3分の1以上が介護業の労働者で、家に住み込みながら介護の仕事をしています。

台湾では、労働局によって外国人労働者が働ける職は決まっており、

  • 介護要員
  • 製造業
  • 建設業
  • 遠洋漁業
  • と殺業

となり、単純労働に限られています。

台湾では出稼ぎできる労働機関は決まっており、最大で12年間となり、介護要員は条件次第では最大14年間までとなります。この条件次第というのは、台湾ではポイント制度を導入しており、介護能力・スキル、言語レベル、介護経験年数をポイント化しており、その条件をクリアすると14年間まで延長できます。

まとめ

特定技能をはじめ、特定技能を知るにあたってキーワードとなる入管法、在留資格、業界ごとの課題、そして韓国・台湾の近隣諸国の外国人労働者の働く環境について取り上げさせていただきました。

まず特定技能では、これまでの在留資格で認められてこなかった産業分野まで労働可能な分野が拡大されたことが、大きな違いということがわかりましたね。受け入れをするにあたり、受け入れをする企業の”受け入れ機関”、支援計画のサポートをする”登録支援機関”があります。

特定技能で外国人労働者を受け入れするためには、日本人同等の給与を支払い、労働基準法を遵守する必要があります。なので、外国人だから安く雇えるということではありません。

日本のお隣でもある韓国、台湾では、外国人労働者を積極的に雇用しており、韓国では政府が主体となり受け入れていることや、台湾では5つの職種の単純労働のみ許可されているという各国独自の体制がわかりました。

大房行政書士法人代表 / 株式会社KMT取締役
行政書士 大房明良 監修

東京都大田区蒲田に生まれ、大学在学中に訪れたカンボジアで学校建設ボランティアに参加し、貧困問題に興味を持つ。2016年に行政書士事務所を開業し、カンボジア語が話せる行政書士として入管業務を専門に行う。現在は特定技能申請をメイン業務とし、2023年5月現在で申請数は4500件を超える。
また、取締役を務める株式会社KMTでは、約600名の特定技能外国人の支援を行っている。